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08-05 認知症と任意後見制度

(1)認知症の人はお金の管理が難しい?

認知症は高齢になるほど発症しやすくなり、患者数は年々増えています。認知症でも早期であれば、周りの人のサポートを受けて日常生活を送ることができますが、認知症によって判断能力が低下すると、例えば定期預金の解約や株や投資信託の売却など、本人の意思確認が必要な経済行為はできなくなります。認知症が重くなると日常のお金の管理が難しくなり、介護サービスを利用しようとしても介護事業者との契約ができないほか、認知症高齢者を狙った悪徳商法などの被害に遭う可能性もあります。

こうした問題を解決するために作られたのが「成年後見制度」です。家庭裁判所に申し立てて後見人を選任してもらうと、その後見人が認知症の人に代わって財産の管理を行ってくれるというものです。

成年後見制度のうち、本人があらかじめ後見人を選んでおくのが「任意後見制度」です。

(2)任意後見制度は?

任意後見制度は、判断能力があるうちに後見人を選び、判断能力が低下したとき後見人に何をしてもらうかを決めて、本人と後見人が任意後見契約を結びます。

後見人にしてもらう内容としては、
・日常のお金の管理:通帳や印鑑の保管、年金の受取り、税金や公共料金の支払いなど
・金融資産の管理:預金の引出し、資産の売却など
・医療や介護:入院の際の医療機関の手続き、介護事業者・介護施設との契約・支払いなど
・不動産の賃貸借契約
・亡くなったときの遺産の処分や遺産分割
などが考えられます。

任意後見契約書は公証役場で公正証書にして、登記しておきます。

本人の判断能力が低下してきたら、本人あるいは家族などが家庭裁判所に任意後見の開始を申し立てます。それを受けて裁判所が任意後見監督人を選任すると、後見人による後見がスタートし、後見人の職務が適正に行われているかどうかを任意後見監督人が定期的にチェックします。

(3)専門職後見人が主流

後見が始まったら、後見人には月数万円程度の報酬を支払う必要がありますが、後見人が配偶者や子など親族の場合は無報酬でもかまいません。

2000年に任意後見制度がスタートした当初は親族が後見人になるケースが8割を超えていましたが、親族は後見人が公的な職務であるという意識があまりなく、後見する人の資産を不正に利用したり、他の親族とトラブルになったりすることがありました。そのため、今は弁護士や司法書士などの専門家が後見人になるケースがほとんどです。

(4)制度は使い易い?

任意後見制度ができてから利用者は少しずつ増えてきていますが、認知症高齢者の数からみると利用率は非常に低いといえます。利用されていない理由には、制度そのものが知られていないことが大きいでしょう。また、制度に使いづらい点があって利用をさまたげているという面もあります。

そのため、制度を使いやすくし、利用促進をするための改正が行われきています。後見人のなり手も不足しているため、一般の人が研修を受けてなる「市民後見人」が増えることが期待されます。

今後、利用者が増えるにつれて、任意後見制度はより使いやすく改善されていくと考えられます。認知症になっても自分らしく暮らしたいという人は、任意後見制度の利用を検討してみてはどうでしょうか。

(4)制度は使い易い?【相続広場】