12 相続税Q&A 応用編 ツイート シェア

12-01 特別受益の持ち戻しは?

(1)贈与した財産は?

 共同相続人の中に、被相続人から生前に多額の贈与を受けていた人(特別受益者)がいる場合、この贈与を考慮しないと他の相続人との間で不公平が生じるため、その贈与財産(特別受益)を相続財産に加算して具体的相続分を算定します。これを特別受益の持ち戻しといいます。

(2)特別受益の範囲は?

 特別受益とされるものには以下のものがあります。
①遺贈・死因贈与
 遺贈または死因贈与により受けた財産はすべて特別受益とされます。

②婚姻・養子縁組のための贈与
 婚姻時の持参金等は特別受益とされます。ただし、結納金や挙式費用は通常は特別受益とはされません。

③生計の資本としての贈与
 親族間の単なる生活費の援助は特別受益とはされません。自立して生活するためのまとまった資金の贈与を受けた場合に特別受益とされます。
 
その主なものは以下の通りです。
・高等教育のための学費(医学部進学費用や海外留学などの高額な学費)
・住宅の購入資金
・事業を開始する際の営業資金等

④生命保険金・死亡退職金
 生命保険金や死亡退職金は、受取人固有の財産として特別受益には該当しません。ただし、その金額が多額で他の相続人と比べて不公平とされる場合には特別受益とされることもあります。

(3)持戻しの免除は?

 被相続人が遺言等で特別受益の持ち戻しをしないという意思表示をした場合は特別受益の持ち戻しは行いません。これを特別受益の持ち戻しの免除といいます。

(4)特別受益の計算は?

①計算方法
 特別受益があった場合は、特別受益が無かったものとして一旦相続財産に加算されます。加算した後の相続財産の合計額を相続人に分割します。特別受益者の具体的な相続分は以下のように計算します。
(ア) 相続財産=被相続人の相続時の遺産+特別受益額
(イ) 特別受益者の相続分=相続財産×法定相続割合―特別受益額

②具体例
 相続人が4人(妻、長男、次男、長女)、被相続人の相続時の遺産が130,000,000円、長男が受けた特別受益額が20,000,000円の場合、各相続人の相続分は以下の通りです。

(ア)相続財産 150,000,000円(130,000,000円+20,000,000円)
(イ)各相続人の具体的相続分
妻   75,000,000円(150,000,000円×1/2)
長男   5,000,000円(150,000,000円×1/2×1/3-20,000,000円)
次男  25,000,000円(150,000,000円×1/2×1/3)
長女  25,000,000円(150,000,000円×1/2×1/3)
このように長男の取得額は、特別受益額20,000,000円と相続時に取得する5,000,000円の合計25,000,000円となり、他の兄弟と同額です。

③特別受益額が法定相続分を超える場合
 特別受益額がその特別受益者の法定相続分を超える場合(超過特別受益)は、その超過特別受益者には相続分はありません。この場合において、その超過分を他の相続人に支払う必要はありません。ただし、遺留分から除外することは出来ませんので、遺留分を侵害している場合には注意が必要です。

 上記②の例で特別受益額が50,000,000円の場合の各相続人の相続分は以下の通りです。
(ア)相続財産 180,000,000円(130,000,000円+50,000,000円)
(イ)各相続人の本来の法定相続分
妻   90,000,000円(180,000,000円×1/2)
長男 △20,000,000円(180,000,000円×1/2×1/3-50,000,000円)
→超過特別受益者に該当。ただし、超過分を他の相続人に支払う必要はない。
次男  30,000,000円(180,000,000円×1/2×1/3)
長女  30,000,000円(180,000,000円×1/2×1/3)
(ウ)各相続人の具体的相続分(特別受益額を除外して計算)
妻   65,000,000円(130,000,000円×1/2)
長男  0円(超過特別受益者に該当するため相続分なし)
次男  32,500,000円(130,000,000円×1/2×1/2)
長女  32,500,000円(130,000,000円×1/2×1/2)